吹くからに秋の草木のしをるれば むべ山風をあらしといふらむ 文屋康秀
ふくからに あきのくさきの しおるれば むべやまかぜを あらしというらん (ふんやのやすひで)
意味
風が吹くとすぐに秋の草木がしおれてしまう。なるほど、だから山おろしの風のことを「山」と「風」の字を組み合わせて「嵐」とするのだろう。
出典
古今集(巻5・秋下・249)。詞書に「是貞(これさだ)のみこの家の歌合の歌 文屋康秀」。
決まり字
ふ
解説
漢字の成り立ちの話です。「山」の字と「風」の字をタテにならべたら「嵐」になった…だから何だと言いたくなりますが、テンポがよく耳に残る歌です。
作者 文屋康秀
文屋康秀。生没年未詳。平安時代初期の歌人。六歌仙、三十六歌仙の一人。天武天皇の皇子長親王の末裔とも。文屋朝康の父。
『古今和歌集』真名序には文琳と記されています。三河掾、山城大掾、縫殿助(ぬいどののすけ)などを歴任しますが身分は低かったと伝えられます。
『古今和歌集』仮名序には「詞はたくみにて、そのさま身におはず、いはば商人のよき衣着たらんがごとし」と記されています。すなわち、言葉はたくみだが、その様子が俗っぽくて賎しい。そこが、商人が良い衣を着たのに似ていると。辛らつですね。
小野小町と親しく三河国に赴任する際、もうけっこうな歳になっている小町を誘ったといいます。その時小町は「わびぬれば 身をうき草の 根を絶えて 誘ふ水あらば いなむとぞ思ふ」(落ちぶれはてて、自分の身が嫌になったのです。根の絶えた浮き草のように、誘う水があれば、ついていってしまおうと思います)と答えました。