有明のつれなく見えし別れより 暁ばかり憂きものはなし 壬生忠岑
ありあけの つれなくみえし わかれより あかつきばかり うきものはなし(みぶのただみね)
意味
有明の月が照らす中、あなたは私をそっけなく追い返しました。あの別れの時から、私にとって明け方ほどつらいものはなくなったのです。
出典
古今集(巻13・恋3・625)「題しらず 壬生忠岑」。
決まり字
ありあ
解説
男が女のもとに通っていって、一晩中過ごした、翌朝、女は男をそっけなく追い返す。「さ帰って帰って」「そんなお前、つれなくしないでもいいじゃないか。あんなに愛し合ったのに」「変なこと言わないでちょうだい!さ、帰って帰って」…「つれないなあ」ふと空を見上げると、有明の月がこうこうと輝いている。それからというもの、暁というものをつらいものと思うようになった。そんな歌です。
作者 壬生忠岑
壬生忠岑。生没年不詳。三十六歌仙の一人で『古今集』の選者の一人。41番壬生忠見の父です。はじめ大将定国の随身。官位は六位と低かったものの多くの歌合せに参加し歌人としての名声は高いものでした。長寿を保ち98歳まで生きたと伝えられます。家集に『忠岑集』
忠岑の歌は後世までも評判がよかったようです。藤原定家と家隆が後鳥羽院から、『古今集』の秀歌を問われたとき、両人ともこの「有明のつれなく見えし別れ」の歌を挙げました。
「春立つといふ許にや三吉野の山もかすみて今朝は見ゆらん」は『拾遺集』の巻頭を飾り、藤原公任による歌論書『和歌九品(わかくほん)』では最上位の上品上の評価を与えられています。